2.ガムと咀嚼機能(3)

(3)脳血流量の増加
最近の研究により、咀嚼と全身の健康とりわけ脳機能の発達との依存性が強調され始めている。

咀嚼は歯や顎を動かす単純な随意運動ではなく、脳において高度な統合機能が関与して成立する運動であるといわれている。たとえば動物実験では、イヌの前頭葉外側下部の眼窩回の電気刺激で、顎のリズミカルな運動が起こることが知られており、咀嚼中枢と呼ばれている。※4,5ラットを用いた行動学研究では、固形食で飼育した群は、粉末食で飼育した群よりも迷路実験の成績が良いと報告されている。※6また、幼堆園児の咀嚼能力と知能指数および数唱テスト得点相関について調査したところ咀嚼値、咬合力が高い園児は、低い園児と比較して指数および得点が高くなる傾向が見られたとの報告もある。※7,8

これらの研究内容は、よく噛むことが栄養面で有利な効果をもたらすだけではなく、咀嚼運動自体が脳に対して何らかの良い影響を及ぼすことを示唆している。

そこで、脳機能の発達の基礎要因となる脳血流量と咀嚼との因果関係の実態を明らかにする目的でポジトロンCTと酸素-15標識水を用いてチューインガム咀嚼時の局所脳血流量の変化を画像解析した。

ポジトロンCT(positron emission tomo graphy' PET)は、核医学診断法のひとつで陽電子(ポジトロン)を放出する放射性同位元素で標識した放射性薬剤を被験者に投与し、その臓器内分布をPETカメラで断層画像に撮影する検査法である。※9放射能の臓器内分布は臓器の局所機能を反映するので、血流や代謝など生理学的、生化学的機能を抽出できる。局所脳血流の測定には、放射性薬剤として、酸素-15標識の水(H2O15)が用いられる。酸素-15は半減期が2分と非常に短いので、10~15分たてば放射能は減衰してなくなる。

実験は20歳から85歳までの30名について、MRI(磁気共鳴断層撮影)と酸素-15標識水少量静注後、PET(陽電子放出断層撮影)で脳血流量とその領域を同定した。被験者にはチューインガムを咀嚼させたときの脳の画像から安静時の画像を差し引きして血流量の変化を計算した。

結果は両側の一次運動感覚野の下部領野に20~40%の有意な血流増加がすべての被験者においてみられた(図5)。そのほかに有意な血流増加が大脳基底核や小脳にもみられた。また脳外部領域での、両側の側頭筋部に100以上の血流の増加がみられた。※10側頭筋部の血流増加はガム咀嚼時の活発な咀嚼筋活動を反映したものと考えられる。

局所脳血流の増加は、咀嚼システムの効果器サブシステムから感覚入力サブシステムを介して脳に送り込まれる咀嚼感覚情報を、フィードバックする大脳の感覚運動神経細胞の代謝活動の亢進がつくり出す炭酸ガス分圧の高まりによって、そこの毛細血管腔を拡張させた結果惹起されたものと思考されている。

からだの発育期での脳血流の増加現象は、脳の機能的発育に大きな役割を果たすと考えられている。幼少時からよく噛む食生活が子供の脳やからだの健康づくりに大切であることがいえるであろう。
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